平成18年(行ウ)第703号
第4次日韓会談本会議議事録一部不開決定処分取消等請求事件
原 告 吉 澤 文 寿 外9名
被 告 国
訴えの変更申立書
東京地方裁判所民事第38部 御 中
2007年5月7日
原告訴訟代理人
弁護士 東 澤 靖
同
川 口 和 子
同
二 関 辰 郎
同
小 町 谷 育 子
同
魚 住 昭 三
同
古 本 晴 英
原告は、頭書の事件について、関連請求(行政事件訴訟法第13条第1号)に係る被告に対する訴えを、下記のとおり追加的に併合して、訴えを変更する。
記
第1 追加的請求の趣旨
1 被告は、原告らに対し、1人当たり金1万円を支払え
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。
第2 追加的請求の原因
1 原告らの開示請求と処分庁の対応及び一部不開示決定処分
訴状記載のとおり、原告らの処分庁(外務大臣麻生太郎)に対する情報公開請求と処分庁の対応の経過は、以下のとおりである。
(1)
原告らは、2006年(平成18年)4月25日、処分庁に対し、情報公開法に基づき、本件請求文書の開示を請求した(甲1)。
(2)
処分庁は、原告らに対し、同年5月25日、「開示請求に係る決定期限の特例の適用について」と題する書面を送付し(甲2)、情報公開法11条に基づき、行政文書の開示請求に係る決定の期限の特例を適用するとし、新たな開示決定等の期限として、「平成18年06月24日までに可能な部分について開示決定等を行い、残りの部分については、平成20年05年26日までに開示決定等を行う予定」とした(甲2)。
(3)
しかし、決定期限である6月24日にも、処分庁は何らの決定処分を行わず、原告らの度重なる督促後、ようやく2006年8月17日になって、本件請求文書のうち、第4次日韓会談本会議議事録(第1回から第9回まで)及び同再開本会議議事録(第1回から第4回まで。まとめて「本件文書」。)について、その一部を不開示とする本件処分をした(甲3)。
本件処分の理由として、処分庁は、「公にすることにより、交渉上不利益を被るおそれがあるため、不開示としました。」との理由をあげていた。
2 原告らの処分庁に対する異議申立
(1) 原告らは、会談の相手国であった韓国において、2005年、本件文書に対応する韓日協定外交文書が全面開示されていたため、韓国の第4次日韓会談本会議議事録を検討した。すると、そこに記載されている内容は、会議の出席者氏名、会議で使用する言語(韓国側は韓国語または英語、日本側は日本語または英語)、議事録の作成方法(双方の起草担当官が作成した後、次回会合時に提出して、双方の主席代表が確認する)、プレス・リリースの方法(双方が報道関係担当官を1名指名し、合同プレス・リリースを本会議の最後に首席代表の指示を受けた報道担当官が作成)、設置する委員会に関するやりとり(韓国側が設置する委員会を提案したところ、日本側が、まだ研究中であるとしてただちには回答をしなかったこと等)、次回会議の日程調整などであり、およそ不開示とされるべき内容ではないことが判明した。
(2) そこで、原告らは、同年10月2日、本件文書の一部不開示決定処分を取り消す決定を求め、処分庁に対し、異議申立をした(甲5)。
しかし、処分庁は、異議申立に対し、何らの決定も行わないため、原告らは、同年12月18日、本件訴訟を提起した。
(3) 原告らが、本件訴訟を提起しても、処分庁は、原告らの異議申立に対し、何ら決定を行わないでいた。しかし、本件訴訟の第1回口頭弁論期日である2007年(平成19年)3月6日、原告らが、法廷において、韓国において全面開示された文書(全94冊)を示し、原告らのうち3名の意見陳述をした後、突如、同年3月28日、処分庁は、本件処分を取り消し、不開示とした部分の全部を開示する決定をした(以下「3月28日決定」という。甲6、7)。原告らの本件請求文書の開示請求から3月28日決定に至るまでに約1年が経過している。
3 本件処分の違法性
(1) 3月28日決定は、その理由を、以下のとおり掲げている。
「原決定について再度検討した結果、以下の結論に至ったものである。
原決定において不開示とした部分については、これを公にしたとしても、他国との交渉上不利益を被るおそれがあると認められるとまでは言えず、法5条3号の不開示情報には該当せず、開示しても差し支えないと判断するに至った。」
そして、4月2日、本件文書が全面開示された(甲8の1ないし13)。
(2) 本件処分は違法である。すなわち、本件処分で一部不開示となった部分は、次のようなものであって、処分庁の決定書のごとく「再度検討」するまでもなく、一見するだけで、「公にしたとしても他国との交渉上不利益を被るおそれ」はないことが明らかである。
以下、3月28日決定で全面開示された甲8号証と、本件処分により一部不開示とされた甲4号証とを対比して、不開示とされた部分にいかなる内容が記載されていたのかを示す。なお、甲8号証において、線で囲った部分が、本件処分時には不開示とされながら、3月28日決定で開示された部分である。
ア 第4次日韓全面会談の本会議第一回会合(甲8の1、甲4の1と対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、会談出席者、議事要旨であった。議事要旨は、日本と韓国の代表の挨拶、出席者の紹介、次回会談開催日の調整、日本と韓国の新聞発表案の朗読、両国の了承であった(甲8の1・1~2頁)。そして、不開示とされていた別添は、議事次第、会談出席者、日本と韓国の代表の挨拶文(英文と和文)、着席表であった(甲8の1・5~19、21頁)。
イ 第4次日韓全面会談本会議第二回会合(甲8の2、甲4の2に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、開会の辞、会談の議題、会議用語(日本側は日本語又は英語、韓国側は韓国語又は英語)、通訳の用意、会議録の起草担当者の設置、英文での起草の決定、起草概要会議録の提出方法、報道関係担当官の設置、共同新聞発表の実施方法、韓国の分科委員会及び小委員会の設置の提案、日本の検討したい旨の回答であった(甲8の2・1~3頁)。そして、不開示とされていた別添は、会合の議事進行表、議題、暫定的な概要会議録、両国の起草担当者のイニシャルが入った英文の第二回概要会議録であった(甲8の2・4~6、10~17頁)。
ウ 第4次日韓全面会談本会議第三回会合(甲8の3、甲4の3に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、日本の分科委員会の設置に関する検討の猶予、韓国の了承と次回会談日程の提案、日本の会談日程の了承と日時の指定であった(甲8の3・1~2頁)。
エ 第4次日韓全面会談本会議第四回会合(甲8の4、甲4の4に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、第二回及び第三回の概要会議録(英文)の両国主席代表による確認、分科委員会の構成について検討中である旨の日本側の説明と韓国側の了承、次回会談日程の指定であった(甲8の4・1~2)。そして、不開示とされていた別添は、英文の第二回ないし第四回の概要議事録(第三回・第四回は両国の起草担当者のイニシャル入り)であった(甲8の4・3~6、8~9、13~16頁)。
オ 第4次日韓全面会談本会議第五回会合(甲8の5、甲4の5に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、第四回会合の概要録(英文)の両国主席代表による確認、分科委員会の構成について検討中である旨の日本側の説明と韓国側の了承、韓国代表団の遅延が同代表団の立場を困難にするため、具体的議題の討議に入りたい旨が強調され、日本の代表が検討を促進する旨を述べたことであった(甲8の5・1~2頁)。そして、不開示とされていた別添は、英文の第四回及び第五回概要議事録(第五回は両国の起草担当者のイニシャル入り)であった(甲8の5・3~4、8~9頁)。
カ 第4次日韓全面会談本会議第六回会合(甲8の6、甲4の6に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、第五回会合概要会議録(英文)の両国主席代表による確認、日本の委員会及び小委員会の設立の提案と韓国の受諾、委員会の名称が日韓予備会談妥結の際の合意事項に変更を及ぼすものではない旨の日本代表の付言、委員会の議事が予備会談の際合意された事項を基礎とした運営の韓国代表の希望、次回会合の日時の指定であった(甲8の6・1~2頁)。不開示とされていた別添は、英文の第五回及び第六回会合概要会議録(第六回は両国の起草担当者のイニシャル入り)であった(甲8の6・3~4、8~10頁)。
キ 第4次日韓全面会談本会議第七回会合(甲8の7、甲4の7に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、第六回会合の概要会議録(英文)の両国主席代表による確認、委員会及び小委員会の委員の名簿の交換の延期、いずれの問題を先に採り上げるべきであるかの議論、次回会合の日時の決定であった(甲8の7・1~3)。不開示とされていた別添は、両国の起草担当者のイニシャルが入った英文の第六回及び第七回会合概要会議録(第七回は両国の起草担当者のイニシャル入り)であった(甲8の7・4~6、11~13頁)。
ク 第4次日韓全面会談本会議第八回会合(甲8の8、甲4の8に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、第七回会合概要会議録の確認の延期、委員会の議事手続の合意、いずれの委員会を最初に開催するかの議論、委員会の委員の名簿の交換、次回会合の日の決定、委員会の会合日決定についての委員会への委任であった(甲8の8・1~4)。不開示とされていた別添は、委員会の委員の名簿、両国の起草担当者のイニシャルが入った英文の第八回会合概要会議録であった(甲8の8・5~11、14~16)。
ケ 第4次日韓全面会談本会議第九回会合(甲8の9、甲4の9に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、議事要旨であった。議事要旨は、第七回及び第八回会合概要会議録(英文)の確認、在日韓人の法的地位及び韓国請求権委員会の第一回会合の日時の決定であった(甲8の9・1~2頁。)そして、不開示とされていた別添は、英文の第七回ないし第九回会合概要会議録(第九回は両国の起草担当者のイニシャル入り)であった。
コ 第4次日韓全面会談再開本会議第1回会合(甲8の10、甲4の10に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、会談出席者、議事要旨であった。議事要旨は、日本と韓国の代表の挨拶、出席者の紹介、次回会談開催日の提案、新聞発表の担当者の指名であった(甲8の10・1~2頁)。不開示とされていた別添は、日本と韓国の代表の挨拶文(英文と和文)、出席者名簿、議事次第(和文と英文)、韓国側代表のプロフィール、分科委員会日本側名簿、着席表、両国の起草担当者のイニシャルが入った英文の再開本会議第1回概要会議録であった(甲8の10・3~14、21頁)。
サ 第4次日韓全面会談再開本会議第2回会合(甲8の11、甲4の11に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、会談出席者、議事要旨であった。議事要旨は、本会議第10回の概要会議録(英文)の確認、議事進行の手続の合意、韓国側の在日韓人の法的地位処遇の問題が優先的に解決されるべきであり、3つの問題(日本への永住定着を選ぶ人、大韓民国へ帰国する人、いずれも望まない人)があることの発言、日本主席代表の十分研究する旨の応答、韓国側の法的地位委員会の速やかな開催の希望、開催前に十分な下相談をするために運営委員を出しSteering
Committeeをつくることの提案、相互送還に関する連絡委員会の開催の決定等であった(甲8の11・1~6)。そして、不開示とされていた別添は、英文の第10回会合概要会議録、韓国側代表の発言、日本側代表の発言であった(甲8の11・7~10、13~22)。
シ 第4次日韓全面会談再開本会議第3回会合(甲8の12、甲4の12に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、会談出席者、議事要旨であった。議事要旨は、本会議再開第1回会合の概要録(英文)の確認、在日韓人の問題を、日本にとどまるもの、韓国に帰るもの、その他のものの3つに分けて法的地位に関する委員会の議題とすることの日本側の同意、法的地位委員会の第1回会合の暫定的決定等であった(甲8の12・1~2)。そして、不開示とされていた別添は、英文の再開第1回会合概要会議録、日本代表の発言、日本代表の発言案であった(甲8の12・3~6、9~10)。
ス 第4次日韓全面会談再開本会議第4回会合(甲8の13、甲4の13に対応)
不開示とされていた部分は、会合の日時、場所、会談出席者、議事要旨であった。議事要旨は、第2回及び第3回の概要会議録の確認の延期、漁業委員会の主査の名前、法的地位委員会の他の委員会の開催を代表間で打ち合わせること等であった(甲8の13・1~3)。
(3) 上記アないしスの不開示とされていた部分は、韓国側で全面開示された会議録のとおり、いずれも、会議の出席者氏名、会議で使用する言語、議事録の作成方法、プレス・リリースの方法、設置する委員会に関するやりとり、次回会議の日程調整であって、実質的な中身の議論はなされておらず、本件文書の開示によって、交渉上不利益を被るおそれは全くない。
特に、着目すべきであるのは、別添に付されている英文の概要会議録である。英文の概要会議録は、両国で決定した起草の手続にしたがって(甲8の2)、日本と韓国両国の会議録起草担当者が起草したうえイニシャルを付し、両国の主席代表がこれを確認している。すなわち、日本と韓国の会議録起草担当者は、一緒に起草する手続を採っていることがうかがわれ、また、両国代表がこれを確認し、了承しているのであるから、概要会議録はすべて、日本と韓国において、同じ文書が保有されていると考えられる。したがって、すでに、韓国において日韓会談の文書が全面公開されている以上、両国の起草担当者がイニシャルを付し、両国の代表が確認した概要会議録を不開示とする理由は見出せない。
(4) 以上のとおり、本件文書には、「公にすることにより、交渉上不利益を被るおそれがある」情報は記載されておらず、本件文書を不開示とした処分庁の本件処分は違法であったし、本件文書が、情報公開法5条3号に該当しないことは、その記載から一見して明らかであった。それにもかかわらず、処分庁は、故意または少なくとも過失により、本件文書を一部不開示としたのである。
(5) 原告らは、本件文書の開示請求時点において、情報公開法の手続にしたがって、適時に情報を開示される権利を有していたにもかかわらず、これを侵害され、精神的な苦痛を被った。その損害は、原告ら各人少なくとも金1万円をくだらない。したがって、原告らは、処分庁に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損賠賠償請求をする権利がある。
4 よって、原告らは、追加的請求の趣旨のとおり、被告に対する損害賠償請求を、頭書事件に追加的に併合して、訴えを変更する。
以 上